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最高裁判所第二小法廷 昭和37年(オ)567号 判決 1964年6月26日

上告人

安部健三郎

右訴訟代理人弁護士

菅原勇

被上告人

千葉弥一

右訴訟代理人弁護士

岡本共次郎

右訴訟復代理人弁護士

江川六兵衛

立野輝二

主文

原判決中上告人敗訴の部分のうち上告人の損害賠償の請求を棄却した部分を破棄する。

右部分につき、本件を仙台高等裁判所に差し戻す。

その余の部分に対する上告を棄却する。

前項の部分に関する上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人菅原勇の上告理由第一、二点について。<省略>

同三点について。

原判決が、原判示甲丙地域は被控訴人(上告人)所有の本件一一二番の二原野に属するから、その地上生立の立木の伐採は少なくとも過失に基づくもので不法行為の成立することはもちろんであるとしたうえ、証拠によれば、原判示乙丙地域を合計した伐採本数とその価格を知りうるだけで、乙丙各地域の伐採木の価格を算出することは不可能であり、他にこれを明らかにする証拠がないので、結局、丙地域の伐採による損害額は証明不十分に帰するとして、この点に関する上告人の請求を棄却したことは、原判文上、明らかである。

しかし、ある地域を所有することを前提とし、同地域上に生立する立木の不法伐採を理由とする損害賠償の請求の当否を判断するに当り、当該地域の一部のみが請求者の所有に属するとの心証を得た以上、さらにその一部に生立する立木で伐採されたものの数量、価格等について審理すべきことは当然であり、この際右の点について、従来の証拠のほかに、さらに新たな証拠を必要とする場合には、これについて全く証拠方法のないことが明らかであるときを除き、裁判所は当該当事者にこれについての証拠方法の提出を促すことを要するものと解するのが相当である。けだし、当事者は裁判所の心証いかんを予期することをえず、右の点について立証する必要があるかどうかを知りえないからである。したがつて、本件の場合、乙丙地域のうち後者のみが被控訴人の所有に属するとの判断に到達した以上、原審は、すべからく、同地域上の立木の伐採数量等について被控訴人に立証を促すべきであつたといわねばならない。とすれば、原審がこのような措置に出ることなく、漫然証拠がないとして被控訴人の前記請求を排斥したのは、釈明権の行使を怠り、審理不尽の違法を犯したものというのほかなく、原判決中上告人の損害賠償の請求を棄却した部分は破棄を免れない。

よつて、右破棄部分以外の点に関する上告は棄却すべきものとし、民訴四〇七条、三九六条、三八四条、九五条、八九条を適用し、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(裁判長裁判官奥野健一 裁判官山田作之助 城戸芳彦 石田和外)

上告代理人菅原勇の上告理由

第一点、第二点 <省略>

第三点 原判決は第一審の乙地域を更に乙及び丙の二地域に二分し、その乙地域は被上告人の所有、丙地域を上告人の所有と認定したが右両地内において被上告人の伐採した立木合計四五本この価額一二四、二〇〇円であることは認められるがこれを乙丙に区分することが不可能だから結局丙地域の伐採木の損害額につき立証なきに帰するから上告人のこの部分の損害請求は失当であるとして棄却した。

けれども本件の争いは甲、乙、丙、丁全地域が上告人所有の一一二番の二に該る地域であるか、又は被上告人所有の一一一番畑に属するかであり従つて立木伐採による損害としては甲地域と一審の乙地域(原審の乙丙を合せた地域)の杉立木の価額であるから第一審の鑑定方法は上告人の損害立証としては何等の不備がない。

殊にその杉立木が該地域に何人が植栽したものでその伐採当時何人の所有であつたかが争であつて、その一本毎の帰属を争うものではなく、又ことに第一審の乙地域について言えば何等その地域に原審の乙、丙と区別すべき何等の境界をなすべき形態あるにあらず、又地盤高低上下の差異がある訳でもなく、又該地上の杉立木は太細の差はあつてもそれは混生していて、地域差に依るものではない。従てこれが両当事者或はその先代等が互に入り乱れて植栽したというべきものではないこと勿論であるから、特別の約束でもない限りは当事者のいずれか一方の所有でなければならない筈であるから原判決がこれを机上一線を画して二分したことが無理である(但し甲地域と一審の乙地域とは場所が隔離しているから別問題であるが)。凡そ原告の請求が可分である場合には裁判所はその一部は理由あるが他の部分が理由なしと認めたときは、その理由ある部分については請求を認容し他の理由なき部分につき請求を棄却することはできるが不可分の場合はその一部の理由を以て全部を認容すべきか或は全部を棄却するかの外はないのである。ところが本件においては原判決は何等当事者にその可分か不可分かを釈明もしないで、当事者の主張も予想もしない境界線を画し(判決添付図面の(リ)(ヲ′)線)て乙、丙に二分しながら、その全体の樹木の価額だけが分割できないから一方の地域にあつた木の価額の立証なきに帰するとして請求を棄却したが若しこの場合仮に両地域の立木につきその一本毎の価格を明にし得たとしても、その裁判所で独自の判断で画した境界線上に存在した立木はその価額を如何にして按分できるであろうか、或はその一本の分割不可能の理由を以て全部の請求を棄却すべきであるのか、若しそうだとすればこれを先に伐採した者の得とする外はない不都合を生ずるが、かゝる結果を生ずるのは不可分を無理に分割認定した失当に基くものであつて原告が立証の責任を尽さない責任ではあるまい。原判決は畢竟民訴法第一二七条に依り釈明権を行使して乙、丙の境界線の有無、該線に依る分割の可能か否か、又は立木損害額が分割立証の意思ありや否を明にしない違法あるか又は民訴法第一八六条違反の違法あり破毀を免れない。

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